2011年08月22日

綺羅の柩


綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

綺羅の柩 建築探偵桜井京介の事件簿 (講談社文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/07/15
  • メディア: 文庫



<裏表紙あらすじ>
かつて、マレーシアの密林からかき消えたシルク王、ジェフリー・トーマス。それから三十余年、軽井沢の別荘、泉洞荘で、絢爛豪華な絹の布に埋まってひとりの老人が不審死を遂げた。奇妙な縁に導かれて京介、蒼、深春たちはマレーシアはカメロン・ハイランドにある月光荘を目指す。そこで見出した真相とは。

建築探偵シリーズの1冊。
このシリーズは、キャラクターで読ませていてミステリ的な興趣はさほどでもない、といわれますが、狭義のトリックを主眼にみるとそういう指摘はありうるものの、人間関係というか人のつながりを軸にしたプロット構築はミステリならではで、ミステリとして薄味とは言えないと思っています。
たとえば、実際に起こったタイのシルク王ジム・トンプソン失踪事件がモチーフの本作品、30数年前の事件が尾を引いて現在の事件を引き起こす、という、ミステリではよくある設定ですが、どうしてつながりのある事件がそんなに時間をあけて発生したのか、というポイントがきちんとおさえられています。また、舞台をマレーシアに移してから続く事件の動機も無理なくストーリーに溶け込んでいます。小道具となるシルクの使い方も、ミステリ的に手堅いものです。解説で若竹七海が指摘しているように、「ミステリ的虚構を徹底的に否定しようとしているかのようにみえ」るけれども、大げさなトリック、わざとらしいミステリ的虚構はなくとも、きちんとミステリが構築できるということを示しているシリーズなのではないかと思うのですが...

哀しい物語の背景となったカメロン・ハイランドですが、なんだかよさそうなところですね。観光で行ってみたい気分になりました。

このあとすでにシリーズは、「angels 天使たちの長い夜」 (講談社文庫) 「Ave Maria アヴェ マリア」 (講談社文庫)という「蒼の物語」2冊と、「失楽の街 建築探偵桜井京介の事件簿」 (講談社文庫) が文庫化されています。がんばって読まなければ。
この記事へのコメント
この作品は、建築探偵シリーズの第11作目になりますね。
実際に謎の失踪を遂げたジム・トンプソンを題材にした物語。

しかし、失踪事件に斬新な新解釈を打ち出すのが目的ではなく、メインはあくまでも、弓狩惣一郎とその妻・みつ、そしてジェフリー・トーマス。

だからこそ篠田真由美さんは「ジム・トンプソン」という名前を使わなかったのでしょうね。
しかし、その3人のその後のことは分かっても、そもそも、なぜみつは惣一郎と結婚したのかという、この根本的な点が疑問のまま残ってしまいました。

この部分は、この物語の土台となる部分だったのではないでしょうか。肝心要な部分が無視されて、その上に砂上の楼閣が築かれたような印象を受けてしまいました。

前半は軽井沢、後半はタイとマレーシアが舞台。
それぞれの情景を旅行気分で楽しめます。
しかし、シリーズ全体としての物語の流れは、依然として停滞中ですね。

それでも蒼は22歳、京介は31歳なんですね。
蒼は年齢よりも子供っぽい気がしますが、相変わらずいい子ですね。今回の作品では、かくしゃくとした刀根老人と神代教授の啖呵がいい味を出していましたね。
Posted by 紫陽花 at 2024年09月04日 22:17
紫陽花さん、ありがとうございます。

そうなんです!
このシリーズ、とかく京介と蒼が注目されますが、周りのおっさん、じいさんがいい味だと思います!
Posted by 31 at 2024年09月09日 11:00
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