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([る]1-13)消えた宝冠 怪盗ルパン全集シリーズ(13) (ポプラ文庫クラシック る 1-13 怪盗ルパン全集)
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2010/07/06
- メディア: 文庫
<カバー裏あらすじ>
ルパンから届けられた一通の犯行予告。今度のターゲットは、グルネイ・マルタンが所有する数千万フランの宝石がちりばめられた宝冠だった。名刑事ゲルシャールは鉄壁の警戒で対抗するが、なぜか宝冠は消え去ってしまった。変装の天才・ルパンが化けているのは一体誰?
2024年10月に読んだ5冊目の本です。
モーリス・ルブランの「消えた宝冠 怪盗ルパン全集シリーズ(13)」 (ポプラ文庫クラシック)。
南洋一郎訳のルパンをポプラ文庫で読み返しているうちの1冊です。
原書刊行順に読んでいたつもりが、全然違う順で読んでいました......
本書は、前回読んだ「怪盗対名探偵」 (ポプラ文庫クラシック)(感想ページはこちら)の後、「奇巌城」(ポプラ文庫クラシック)(感想ページはこちら)の前に発表されていたようです。
「この本を読む人に」という訳者による前書きに、F・クロワセットとの合作でアテネ座で上演し好評を博した劇と、それを英国人のE・ジェプソンが合作で英文の小説にしたものを合わせて翻訳した、と書かれています。南洋一郎は、戯曲と小説のいいとこどりをしたわけですね。
この経緯を読むと、一般に本書の邦題が「リュパンの冒険」 (創元推理文庫)(東京創元社は、ルパン、ではなく、リュパン表記です)とされている理由がわかりますね。小説のルパンものを読んできた身からすると、「ルパンの冒険」というのは、なんともしまらないタイトルですが、劇として上演されるものであれば理解できます。
そういう成り立ちの作品だからか、いかにも、ルパンものってこうだよね、と言いたくなるような内容になっていて、満足度高いです。
本書に登場するのは、いつものガニマール刑事ではなく、ゲルシャール部長刑事です。
「名刑事のガニマールも、英国の大探偵シャーロック・ホームズも、フランスの生んだ最大の名探偵といわれるゲルシャール部長刑事まで、いつもルパンに裏をかかれて、みじめな敗北をしてきたのだ。」(21ページ)
という、いささか気の毒な紹介ぶりです。ここにちゃっかりシャーロック・ホームズに言及しているのがおかしいですね。
ゲルシャール部長刑事は名探偵という触れ込みで、マルタンの屋敷にルパンが忍びこんだ現場にやってくると、すぐさま、暖炉の防火ついたての後ろに隠れていた死体を見つけるというエピソードが披露されていますが、これはゲルシャールの明察というより、見つけられなかった予審判事がボンクラなだけな気がします(笑)。
「あなたが見おとすのもむりはないですよ。ついたてがあるんですからね。」(87ページ)
って、ゲルシャールはとりなしますが、無理あるでしょう。
冒頭の前書きに、「これが上演されたとき、観客は、意外な人物がルパンだとわかって、びっくりし、大拍手をしたのでした」と書かれていますが、この人物、ルパンものに慣れた身には意外でも何でもなく、登場した瞬間にこいつはルパンだな、と見当をつけてしまうような設定なのですが、それでもしっかりハラハラ、ドキドキ、とても楽しく読めます。
この正体を知っているうえで本書を読むと、あちこちに、アンフェアではないか、と思われそうな箇所があるのですが、注意して読むと非常に気を使った書き方がされていて、アンフェアとは言い切れないようになっているように思われました。嫌味な大人になってから読み返しての、新しい発見です(笑)。
上にも書きましたが、いかにも、ルパンものってこうだよね、ルパンはこうでなくちゃね、と言いたくなるような内容でとても楽しめましたので、ルパンものを読んだことのない方(そんな人、いるんだろうか? と思えてしまうくらい流布していますが)に数ある作品の中からおすすめかな、と思います。
<蛇足1>
「グルネイ・マルタンは億万長者といわれている。財産が何億万フランもある大金持ちという意味だ。」(17ページ)
「億万長者」ってよく使われる表現ですが、変な表現ですね。百万長者ならすんなり意味が通るのですが。
<蛇足2>
「その頭取のダレイが貯金を横領して、株で大もうけをして、じぶんは財産を倍増し、二千人もの預金者を破産させた。中には自殺したものさえあった。
その頭取のダレイのやしきへしのびこんで、金庫をからっぽにしたのがルパンだった。かれはその金をぜんぶ預金者に分配してしまった。」(22ページ)
いかにもルパンらしいエピソードですが、前段のダレイ貯蓄銀行事件と呼ばれる事件、ルパンの出番を待つまでもなく、普通に頭取が逮捕されて、お金も(ある程度は)返還されるように思うのですが?
<蛇足3>
「そこで、すぐにホームズの住所、ロンドン、ベーカー街二二一番地へ手紙がおくられた。」(119ページ)
Bはどこへ行ったのでしょう?
まあBが欠けていても、ホームズ宛の手紙は届くでしょうけれど(笑)。
<蛇足4>
「この日、パリの市内では二けんの引越しが、おなじ日のおなじ時刻にかちあったので、いやもう大変なごだごだだった。」(227ページ)
パリほどの大都市が、たかが2軒の引越しで......と笑ってしまいました。
おなじ建物に住んでいる2軒ということでしたので、そのビルでは大騒ぎだった、ということですね。
原題:Arsène Lupin/Une Aventure d'Arsène Lupin
作者:Maurice Leblanc
刊行:1909年(Wikipediaによる)
訳者:南洋一郎
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