
クリスマス緊急指令 ~きよしこの夜、事件は起こる!~ (講談社文庫 た 88-21)
- 作者: 高田 崇史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/12/15
- メディア: 単行本
<カバー裏紹介文>
クリスマスに、不思議な事件が発生! 大伴黒主(おおとものくろぬし)の歌が、ダイイング・メッセージとなった事件を解明する「鏡影」。バーでカクテルを傾けながら謎を解き、相談者の心も溶かす「K's BAR STORY」。調律を誤ったオルゴールの音色が、琴線に触れ、宿泊客の人生さえ変えてしまう「オルゴールの恋唄」など、珠玉の短編集。
2024年10月に読んだ11冊目の本です。
高田崇史「クリスマス緊急指令 ~きよしこの夜、事件は起こる!~」 (講談社文庫)。
鏡影【緊急推理解決院(EDS)歴史推理科】
クリスマスプレゼントを貴女に ~K's BAR STORY~
想い出は心の中で ~K's BAR STORY~
迷人対怪探偵
怪探偵退場
オルゴールの恋唄
茜色の風が吹く街で
を収録したノンシリーズ短編集ですが、全編、クリスマスを扱っています──といってもクリスマスにそれほど重い意味を持たせているものではなく、ゆるやかな感じです。
高田崇史は、多数のシリーズを抱えていますが、多くは日本史に材をとった作品で、高田史観とでも言いたくなるような歴史の見方を提示してくれます。
この「クリスマス緊急指令」 は、その観点からは異色作になるのでしょうか、冒頭の「鏡影【緊急推理解決院(EDS)歴史推理科】」を除いては歴史色はありませんね。
なので、多彩な作品が並んではいるのですが、うーん、どうでしょうか。高田崇史ならでは、といった部分が感じられず、物足りなさを感じてしまいました──といいながら、千葉千波シリーズのテイストに近いので、こちらの勝手な思い込みに過ぎないのは重々承知しているのですが。
「鏡影【緊急推理解決院(EDS)歴史推理科】」は古今和歌集、とくに大友黒主を扱っていますが、いつものような切れ味は感じませんでしたね。
その次の ~K's BAR STORY~ と副題につけられた2作は、高田崇史の新たな側面を見せてくれている連作といえるのかもしれません。
副題どおりバーを舞台にして会話主体に進む作品です。
「クリスマスプレゼントを貴女に」は、騙される人はほとんどいないかもしれませんが、ちょっとしたひっかけにぼくは嵌まってしまいました(作者はひっかけるつもりもなく、こちらが勝手に思い込んだだけという可能性もありますが)。なるほど、そういうことでしたか。
お話そのものの見当はついたのですが、このおかげでとてもいい感じに思えました。
一方で「想い出は心の中で」は、なんだか心温まるストーリーみたいな語り方になっているのですが、これ、いい話ですか?
続く迷人対怪探偵のシリーズは、脱力系とでもいうべきミステリです。
なんといってもメイン(?) が、敗智心郎(まけちこころう)と駒鷲(こまわし)くんですからね。
こういう馬鹿馬鹿しい作品は受け付けない人もいるかと思いますが、個人的にはOKです。
また、これらの連作は、お父さんが息子にあてて書いた小説、という建付けになっていて、なんとなく読み飛ばしていたら、最後でこの枠組みの意味がわかるという。面白かったですね。
最後の駄洒落のような〆の言葉も、なかなか楽しく感じましたが、これ、読み方が違うような気がしますね。
駄洒落が得意な田中啓文さんに読んでもらって、感想を聞きたくなりました。
「オルゴールの恋唄」は西洋アンティークのオルゴールで演奏会を開く「望月庵」という箱根の和風旅館が舞台で、調律がくるってしまった結果、演奏された曲が聴くものによってさまざまに聴こえてしまうことから起こる物語。
客たちがそれぞれ抱えている事情というのが披露されていくのですが、相互に関連があればもっとよかったかな、と感じましたが、これはミステリの読み過ぎからくる感想ですね。
出てくる曲を書いておくと、バッハ「平均律」、ドビュッシー「夢」、シューマン「トロイメライ」「アヴェ・マリア」です。
最後の「茜色の風が吹く街で」は中学校で発生した試験問題盗難事件を扱っています。
なぜ国語の問題だけ2枚盗んだのか、という謎がとてもいいと思いましたし、後から振り返って、
「長い人生の中で、ほんの一瞬同じ時間を過ごしただけなのに、どうして思い出はこんなに切ないのだろう。それとも、切ないからこそ思い出なのだろうか」(382ページ)
という感慨がなかなかいい感じです。
ラベル:高田崇史
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