2024年12月11日

向島・箱屋の新吉


向島・箱屋の新吉 (角川文庫)

向島・箱屋の新吉 (角川文庫)

  • 作者: 小杉 健治
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/08/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏紹介文>
向島で箱屋を生業にしている新吉は、芸者の身の回りの世話をして生活を送っていた。ある日、目をかけられている料理屋の旦那が首を吊った。新吉は現場に手拭いが落ちていたことから、他殺として調べ始める。一方、南町定町廻り同心の扇太郎は、連続辻強盗を追っていた。次に狙われると定めをつけた向島で聞き込みをしていた時、別件で探していた男と瓜二つの新吉を見かける。向島と花街を舞台に繰り広げられる人情時代小説開幕!


2024年11月に読んだ6作目(7冊目)の本です。
小杉健治「向島・箱屋の新吉」 (角川文庫)
小杉健治の感想ははじめてのように思います。
小杉健治は、「原島弁護士の処置」(のちに「原島弁護士の愛と悲しみ」 (光文社文庫)と改題)でオール読物推理小説新人賞を受賞してデビューした作家で、複雑なプロットを持つ法廷ミステリの傑作を数多く書かれています。最近はすっかり時代小説作家のような比重になっています。
時代小説はもともと特に興味があるわけではないことに加え、最近の時代小説は長く続くシリーズものが多く、なかなか手に取るきっかけがつかめないということもあいまって、小杉健治の作品といえども手に取ってはいなかったのですが、ふとネットで目にしたので購入してみました。

役者顔負けの男ぶりの新吉。芸者の身の回りの世話をする箱屋をしている。どうやら剣の腕もたつようで。
とまあ、ここで過去がある身なのだな、とわかり、その事情は追い追い明らかに。
ひいきにしてもらっている旦那が首を吊って死に、調べでは自殺となったけれど、納得がいかず調べ始める。

手がかりらしい手がかりは少ないというのに、ちょっとするすると解けすぎるようにも思われますが、時代背景や犯人の性格(性質?)からすると、こういう感じなのかも、とも。
小杉健治らしいというのか、事件の背景が作りこまれていて満足できました。
それぞれ長篇を支えられそうなネタがいくつか贅沢に投入されています。
こういう物語の構図の作りこみこそ、小杉健治の長所ですよね。

新吉の正体(?) についても、なにやら気になる展開になっていて、これは続きを読まなければ。

興味深かったのは、やはり、向島という舞台でしょうか。
芸者の本場(?) ではなく、向島。
213ページの終わりごろから、”潮来出島の真菰の中に菖蒲(あやめ)咲くとはしおらしや” という潮来節の一節から来た成り立ちが説明されていますが、これがおもしろい。
本当に江戸の向島にはこういうところがあったのでしょうか。

あと、新吉と芸者のお葉はお互い憎からず思っているようですが、職業柄この二人の結びつきは許されたのでしょうか?
また、新吉がお葉に、過去の女の面影を見ているというのも、気になるポイントですね。
今後の展開がどうなるのか......



<蛇足>
「七月七日、きょうは七夕祭りで、家々の屋根高くに飾りをつけた竹が立って笹の葉が風に揺れていた。」(98ページ)
竹と笹は別の植物ですが、どちらだったのでしょう?
posted by 31 at 19:00| Comment(0) | 日本の作家 か行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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