<カバー裏紹介文>
ウォルフは独立映画プロデューサー。友人の監督といい感じのコンビを組み、ブロンドの妻は元女優。ある朝、ニューメキシコの朝日がアドービ煉瓦を染める頃、ウォルフは知った、自宅の客用寝室で、妻と監督とそして彼自身が、散弾銃で惨殺されたことを。生きている自分は今グランド・キャニオン。そして前夜の記憶がまるでない…
2024年11月に読んだ7作目(8冊目)の本です。
スチュアート・ウッズの「サンタフェの裏切り」 (文春文庫)。
この前の「ニューヨーク・デッド」 (文春文庫)(感想ページはこちら)からそれほど間を開けずに読めました。
「ニューヨーク・デッド」
「サンタフェの裏切り」
「LAタイムズ」 (文春文庫)
の3作は出版時期が近く、いずれもタイトルに地名がついているからシリーズかなと思っていたら違いましたね。独立した作品です。
日本のタイトルは「サンタフェの裏切り」ですが、原語は "Santa Fe Rules”、文中に「サンタフェの流儀」として何度も出てきます。
「エドは自ら”サンタフェの流儀(ルールズ)”と称するものに基づいて行動していて、それが彼自身にも依頼人にも利益をもたらしている。」(49ページ)
「ウォルフ、ここはサンタフェです。だからすべてがすこしずつちがってくるんだ。私たちは”サンタフェの流儀”に基づいて行動している。」(86ページ)
何度も繰り返し出てくるわりに、読んでいても、どのあたりがサンタフェ独特なのか、よくわかりませんでした。
アメリカに住んでいると実感できるのでしょうか?
主人公であるウォルフの行動は型破りでしたが(なにしろ殺人事件が起こっていて、自分がその被害者と目されているというのに、警察にもいかず、弁護士にも相談せず、ひたすら映画製作という仕事をする、というのですから......)、サンタフェ流とは言えないですよね。
さて、物語は、主人公ウォルフが自分が殺されているとニュースで知るところから、ウッズらしく絶好調です。
殺されたのは自分ではないのだから、さて、誰か?
妻ジュリアに自分の全く知らない犯罪歴、結婚歴の過去があったことがわかる。
ウォルフの弁護士となったエドは、性格証人となるのではないか、とジュリアの妹で服役中のバーバラに会いに行き、恋に落ちる。バーバラには、ジュリアと同じ刺青があって......
折々に繰り出される意外な事実に、主人公たちと同様振り回されていきます。
この後も、意外な事実が次々と浮かび上がってきて、そのたび物語はうねっていくのです。
そうやって心地よくウッズの仕掛けるジェットコースターノベルに浸っていたら、いやあ、びっくりするようなネタをぶち込んできて、笑ってしまいました。
謎解きミステリを志向しているわけではないので、目くじらを立てるようなものではないのかもしれませんが、これはすごい。個人的には笑撃。
これはダメでしょう(笑)。伏線、張っておけ! 少なくとも匂わせておけ!
352ページにさらっと触れられていて、その15ページほど後で明かされるので、遅すぎ(笑)。31~32ページも修正する必要があるのでは?
まあ、楽しかったから、よし(笑)。
犯人がかなり強烈な造型になっており、その内容を深く掘り下げていけば、きわめて現代的なミステリの出来上がり(狂気を抉り出すような作品、多いですよね)、というところですが、そこはあえて深入りせず、エンターテイメントとして作ってあるのが個人的には好印象です。
次の「LAタイムズ」も楽しみです。
<蛇足1>
「結婚は?」
「してない」
「なぜ?」
「幸運だったから、たぶん」(195ページ)
似たような会話が、「ニューヨーク・デッド」にも出てきましたね。
ウッズのお気に入りのジョークなんでしょうか?
<蛇足2>
「マリアが素晴らしいクリスマス・ディナーを用意してくれた。彼らはダイニング・ルームで形式ばった食事をして、伝統のディナーを腹いっぱいに詰め込んだ。~略~ウォルフとジェーンは午後の大半を昼寝をして過ごし、」(256ページ)
クリスマス・ディナーとありますが、食べているのは朝です。
一般にディナーというと夜の食事を連想してしまいますが、もともとの意味は、その日でいちばん豪華な食事、ですから、朝であることも昼であることもあるのですね。
朝食べるのは、なかなか重い気もしますが......まあ、クリスマスですしね(笑)。
原題:Santa Fe Rules
著者:Stuart Woods
刊行:1995年
訳者:土屋晃
ラベル:スチュアート・ウッズ