2024年12月16日

三十棺桶島(ポプラ社)


([る]1-11)三十棺桶島 怪盗ルパン全集シリーズ(11) (ポプラ文庫クラシック る 1-11 怪盗ルパン全集)

三十棺桶島 怪盗ルパン全集シリーズ(11) (ポプラ文庫クラシック)

  • 出版社/メーカー: ポプラ社
  • 発売日: 2010/05/07
  • メディア: 文庫

<カバー裏紹介文>
ベロニクは見知らぬ土地で見つけた自分のサインに導かれるように「三十棺桶島」と呼ばれる島へたどり着く。恐ろしい陰謀に巻き込まれたベロニクを救い、島にあるという人間の生命を自由にあやつる「神の石」の謎をとくため、ルパンがスーパーマンのような活躍を見せる。


2024年11月に読んだ8作目(9冊目)の本です。
モーリス・ルブランの「三十棺桶島」 (ポプラ文庫クラシック)
南洋一郎訳のルパンをポプラ文庫で読み返しているうちの1冊です。
原書刊行順としては、「古塔の地下牢―怪盗ルパン全集」 (ポプラ文庫クラシック)(感想ページはこちら。一般的な大人向けの訳題は「水晶の栓」 (ハヤカワ・ミステリ文庫))の次だったようです。

この作品でルパンはドン・ルイ・プレンナとして登場します。
本体(?) はなかなか登場せず、最初のうち118から119ページにかけて名前だけ出てくるのみで、読者はいつ出てくるか楽しみに読むことになります。
──余談ですが、118ページからの場面ではベルバル大尉の名前も出てきます。
「ベルバル大尉という人がやってきたのだ。(黄金三角にでている、世界大戦で右足をうしなった勇士)」(118ページ)
「ドン・ルイ・プレンナというスペインの貴族だった。」(これも黄金三角にでてくる怪紳士)(119ページ)
というカッコ内の説明は、南洋一郎がつけたものでしょうね。ちゃっかりした「黄金三角 怪盗ルパン全集シリーズ(6)」 (ポプラ文庫クラシック)(感想ページはこちら)の宣伝なのでしょうね。

そのドン・ルイ・プレンナ(=ルパン)が表立って登場するのはようやく257ページになってから。
悪者に対して名乗りを上げるところで、笑ってしまいました。
「わがはいはスペインその他各国の貴族、ドン・ルイ・プレンナだ。世界各国で悪をくじき善をたすけ、いかなる危険もおかして、あくまで強く生きる男いっぴきドン・ルイ・プレンナだ。(257ページ)
いやいや「男いっぴき」って(笑)。

対する相手もなかなかのもので、
「いやだ。どうどうとたたかったら、おれはきさまには、とてもかなわない。ざんねんだが、きさまはおれより役者が上だ。
 だから、ひきょうといわれようが、男らしくないといわれようが、おれはこの手できみとたたかうんだ。」(287ページ)
なんて言ったりします。ある意味あっぱれ。
こういう風に正々堂々と戦えば敗けるということを自覚している敵の方が手ごわいはずですよね。

さて、この小説、そもそも「三十棺桶島」というタイトルがいわくありげでとてもいいですね。その島に《神の石》があるというのもいい。
いわくが現在の事件の謎解きと密接に結びついていないという点は現代ミステリの観点からはマイナスになりかねないのですが、いやいや、雰囲気に十分貢献してくれているので満足です。
第六回(このシリーズでは、章ではなく回になっています)で、ルパンが長々と《神の石》の話を披露します。このようにストーリーの背景となる物語を雄弁に語るという手法は、コナン・ドイルの長篇にもありますね。
今ではあまりはやらないやり方ですが、当時は一般的だったのでしょう。
──脱線しますが、島田荘司は現代においてこの手法をよみがえらせようとしているのだと思っています。

今から見るとものいいがつく箇所が多いものの、解説で日明恩が書いているように
「横溝正史の世界観に通じるドロドロした話に、007シリーズのロジャー・ムーア主演作の映画と、歌舞伎の花形役者の大見得をすべてぶち込んだ話」
として、とても楽しめるいい娯楽作品だと思います。



<蛇足1>
「あの悪少年のレイノルドとは雪と炭の違いだった。」(145ページ)
雪の対比は炭なのですね。

<蛇足2>
「わしはスーパーマンいじょうなのじゃ」(211ページ)
ルパンが怪老人に化けていうセリフです。
あるいは敵が心中で以下のように思うシーンがあります。
「悪の大魔王、暗黒の巨人、スーパーマンの怪盗紳士ルパンが、恐るべき男だとは知っていたが」(325ページ)
これらに出てくるスーパーマン、アメコミのヒーローですが、wikipedea で調べてみると1938年が初登場のようです。
本書の原書は1919年出版ですから、これも南洋一郎のオリジナルですね。読者である現在の日本の少年少女にわかりやすいようにたとえたのですね。
それとも、ここのスーパーマンは一般名詞なのでしょうか?

<蛇足3>
「いや、魔法使だ。おれはかんぜんにシッポをぬぐ」(213ページ)
シッポは脱げないですね(笑)。
誤植なのか、それとも訳者がもともとこう書いていたのか、どちらでしょう?

<蛇足4>
「いまから二千六百年ほどのむかし、正確にいえば、西暦紀元前七百三十二年の七月二十五年のことだ・・・・・」(296ページ)
紀元前というときに、西暦紀元前という表現はあまり見ないように思います。
当時はこういう言い方が普通だったのでしょうか?こう書く方が正確に伝わりますね。

<蛇足5>
「狂乱になった老博士は、ベロニクが生んだ男の子フランソワをぬすんで、イタリアへにげようとし、とちゅうで大暴風雨のために、このサレク島へついた」(314ページ)
この当時ベロニクとフランソワがいたのはニースです。ニースは地中海沿岸の都市。
サレク島(=三十棺桶島)はドーバー海峡近くで、大西洋沿岸です。
ニースからイタリアへ船で向かっているというのに、大西洋岸もかなり北のほうに行ってしまうでしょうか?

<蛇足6>
「にげだされるのをふせぐために洞窟の一部に、セメント壁をつくって、あたらしい岩牢(いわろう)にした。」(322ページ)
岩牢という語を初めて知りました──子供のころ読んでいるはずなので、初めてとは言えないですね──当時はスルーしていたのですね。



原題:L'ile Aux Trente Cercueils
作者:Maurice Leblanc
刊行:1919年(HP「怪盗ルパンの館」による)
訳者:南洋一郎

posted by 31 at 19:00| Comment(0) | 海外の作家 や・ら・わ行 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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